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水田の真核生物相とメタン発生量の経時変化
○酒井 順子
1, 常田 岳志
1, 林 健太郎
1, 片柳 薫子
1,2, 臼井 靖浩
1,3, 中村 浩史
4, 酒井 英光
1, 長谷川 利拡
1
1農研機構・農業環境センター, 2森総研, 3農研機構・北農研, 4太陽計器(株)
kyoriko@affrc.go.jp
【背景】水田は温室効果ガスのメタンの主要な発生源の一つであり、メタンは土壌古細菌によって生成されている。その一方で、水田にはメタン生成菌以外にも様々な生物が生息し、相互に影響していると考えられる。これまでの解析から水稲栽培期間中の土壌では、細菌、古細菌に比べて真核生物の経時変化の大きいことが明らかになっている。本研究では、メタンフラックスの変化と真核生物群の増減の関係を解析した。
【方法】茨城県つくばみらい市水田圃場のメタンフラックスをチャンバー法で経時的に測定した(2012年)。同年の同水田において、表層より2.5~5 cmの土壌をコアサンプラーで採取し2 mmのふるいを通した。メタン発生前、発生初期、最発生期、減少期、落水期の5時期の土壌を乳鉢で粉砕してDNAを抽出し、18S rDNA配列の次世代シークエンス解析(454 GS Jr, Roche)を行った。また定量PCR法で細菌および古細菌rDNA数を測定した。
【結果】メタンは 5月末の田植え後、6月中旬から発生し、8月初旬に最大値を示した後8月中旬にはやや減少した。真核生物のrDNA存在比を解析した結果、メタンフラックスと正の相関を示した生物群はイネおよび線虫であった。また、たん水期に増加した線虫の大半は、捕食性グループに属した。一方、原生生物の存在比はたん水後に増加した後、8月初旬のメタンフラックスのピーク時に大きく減少した。多くの原生生物は落水まで減少した状態を維持したが、繊毛虫のグループは8月中旬には増加し、メタンフラックスおよび線虫と負の相関を示した。真核生物の中ではイトミミズ科のrDNAが最も高い割合で検出された。イトミミズ科rDNAは、たん水期間中、真核生物rDNAの20%前後を占め、8月中旬に30%程度まで増加した。
すなわちたん水後、最初に原生生物が増加し、次にこれを捕食する線虫が増加(あるいは成長)し、さらにイトミミズが増加(あるいは成長)していた。原生生物が減少する時期にメタン生成菌を含む古細菌数が増加しており、真核生物の増減とメタン発生の関連が示唆された。