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北方林における積雪パターンの変化に対する微生物群集の応答
○岡 裕章1, 磯部 一夫1, 渡辺 恒大2, 舘野 隆之輔3, 妹尾 啓史1, 柴田 英昭2
1東京大・院農, 2北海道大・院農, 3京都大・院農
積雪寒冷地域の森林では、冬期の微生物活動による窒素動態が生育期の植物生産に影響を及ぼすと考えられている。また、気候変動により今後積雪量の減少が予想され、積雪量・積雪期間の減少に対する冬期から生育期における生物地球化学プロセスの応答が注目されている。本研究では、北方落葉広葉樹林において積雪期に大規模な除雪実験を行い、積雪量・積雪期間の減少に対する冬期から生育期における微生物群集の応答について検証した。調査は京都大学北海道研究林標茶区において、2013年10月~2015年10月までの2年にわたり行った。研究林内に12のプロット(除雪区6プロット、非除雪区6プロット)を作成し、2014年12月から3月まで除雪区において除雪を行った。2013年~2014年の積雪期間では除雪区・非除雪区で最大60 cmの積雪が、2014年~2015年の積雪期間では除雪区で最大60 cm、非除雪区で最大120 cmの積雪がみられた。10日から2ヶ月に1度の頻度で各プロットから土壌を採取し、全細菌の16S rRNA遺伝子、全カビの18S rRNA遺伝子、アンモニア酸化細菌(AOB)およびアーキア(AOA)が有するamoAの定量を行い、それら微生物群の量的変動を解析した。また、16S rRNA遺伝子の大規模シーケンスを行い、細菌組成の変動を解析した。除雪区・非除雪区ともに、全細菌量と全カビ量は秋から冬にかけて増加し、春先から減少する傾向を示した。またAOB量は特に積雪期において増加する一方で、AOA量は減少した。これは秋の落葉による有機物供給によって、冬期において微生物の増殖とともに活発な無機化(アンモニア生成)が生じ、AOBによって硝化されたためと考えられた。除雪処理後の除雪区と非除雪区を比較すると、全細菌量、全カビ量、AOB量が積雪期間においては除雪区において非除雪区より有意に高い値を示した。これは除雪によって土壌の凍結融解サイクルが増加することで、無機化の基質が供給され、無機化が促進されたためであると考えられた。一方で生育期においては有意な差が見られなかったことから、除雪の影響は生育期には及ばないと考えられた。このように微生物は季節によって量的な変動を示したが、シーケンス解析の結果では細菌群の組成はほぼ一定であり、除雪による差もあまり見られなかった。