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付加体の深部帯水層におけるメタン及び窒素ガス生成プロセスの地域特性
付加体は、海溝において海洋プレートが陸側プレートの下部に沈み込みこむ際、海洋プレート上部の海底堆積物がはぎ取られ、陸側プレートの側面に付加することで形成された厚い堆積層である。付加体の分布域は、西南日本の太平洋側、台湾、インドネシア、トルコ、NZにて見ることができる。付加体の深部帯水層には天水または海水に由来する豊富な嫌気性地下温水とともに、高濃度のメタン(CH4)や窒素ガス(N2)が存在している。しかし、これらの生成プロセスに関する知見はこれまでほとんど得られていない。本研究では、付加体が分布する静岡県中西部の太平洋沿岸部から山間部の地域に構築された大深度掘削井において、深部帯水層に由来する嫌気性地下温水と付随ガスを採取した。付随ガスの組成分析を行った結果、太平洋沿岸部に位置するサイト及び沿岸部と山間部の中間に位置するサイトからの付随ガスにはCH4が96%以上含まれている一方、山間部に位置するサイトからの付随ガスにはCH4とともに20~50%の割合でN2が含まれていることが示された。付随ガス中のCH4と地下温水中の溶存無機炭素の炭素安定同位体比分析の結果、太平洋沿岸のサイトの付随ガスには有機物の熱分解起源のCH4が、中間部と山間部のサイトの付随ガスにはメタン生成アーキアによる微生物起源のCH4が含まれていることが示唆された。地下温水中の微生物群集を対象としたCARD-FISH及びメタ16S rRNA遺伝子解析の結果、水素資化性メタン生成菌、発酵細菌、脱窒細菌の優占が確認された。また、地下温水に有機基質を添加した嫌気培養を行った結果、中間部と山間部のサイトにおいて水素発生型発酵細菌と水素資化性メタン生成菌の共生による高いCH4生成ポテンシャルが示された。さらに、山間部のサイトの地下温水に有機基質と共にNO3-またはNO2-を添加した嫌気培養を行った結果、微生物脱窒によるN2生成ポテンシャルが確認された。本研究の結果より、太平洋沿岸部の付加体の深部帯水層では有機物の熱分解によるCH4生成が行われている一方、中間部と山間部の付加体の深部帯水層では水素発生型発酵細菌と水素資化性メタン生成菌が共生することで、堆積層中の有機物が分解され、CH4が生成されていることが明らかとなった。また、山間部の付加体の深部帯水層では微生物脱窒によるN2生成が同時に行われている可能性が示された。