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地下水中におけるウイルスの原核生物群集制II
【今までに明らかになったこと】嫌気的な地下圏において、ウイルスが原核生物群集の制御因子として果たす役割は大きいことが予想される。地下圏においてもウイルス様粒子(virus-like particles: VLP)数を明らかにした報告はなされているが、海洋や湖沼環境で明らかになっているようなウイルスと原核生物の相互作用を明らかにした報告はまだ殆ど例がない。そこで、富士山南麓の還元的な地下水を対象に、原生生物を除去しない培養区とサイズ分画によって原生生物を除去し、かつウイルス(V)と原核生物(P)の接触頻度に倍の差を設けた2つの培養区(接触頻度1と接触頻度2)を構築した。これらを120時間培養することで地下水中のウイルスが原核生物の数と群集構造に与える影響を評価した。前回大会では、原核生物の群集構造に関して綱レベルでウイルスの影響を報告したが、今回はさらに研究を進め、原核生物の属レベルでの群集構造と経時変化に着目した結果を紹介する。
【結果】擬似現場環境で行った4回の培養実験において、全ての培養区で培養48時間から72時間にかけて原核生物数が減少し、VLP数が増加したことからウイルスによる溶菌が起こったと推察される。培養後に16S rRNA遺伝子アンプリコンシーケンス解析を行い、現場環境と培養後の原核生物の群集構造の変化を明らかにした。現場環境ではAlphaproteobacteria綱とBetaproteobacteria綱が優占していた。接触頻度に差をつけた接触頻度1と接触頻度2の培養後ではBetaproteobacteria綱とGammaproteobacteria綱が優占するようになり、これらの分類群の割合が大きく異なった。特に、Gammaproteobacteria綱のAcinetbactor属とBetaproteobacteria綱のLimmnohabitans属の割合は実験毎に変化の傾向が異なっていた。これより、地下水中のウイルスは特定の分類群の群集構造に直接的あるいは間接的に影響を与えていることが推察される。この群集構造にウイルスが与える影響をより明確にするため、原核生物数とVLP数が大きく変化した培養48時間と72時間における接触頻度1と接触頻度2の群集構造の解析を進めている。
本研究により、地下水環境においてウイルスが原核生物の数と群集構造を制御していることが示唆された。また、ウイルスによる溶菌が地下圏における物質循環へと寄与している可能性も考えられる。