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海底堆積物に生息する微生物ダークマターChloroflexi門細菌の分離・培養
○中原 望
1, 小西 優
3, 高木 善弘
2, 酒井 早苗
2, 玉木 秀幸
3, 山口 隆司
1, 高井 研
2, 井町 寛之
2
1長岡技大・院, 2海洋研究開発機構 (JAMSTEC), 3産業技術総合研究所 (AIST)
s145023@stn.nagaokaut.ac.jp
海底堆積物環境は地球における重要な物質循環の場であり、その物質循環を担っているのが微生物である。16S rRNA 遺伝子を主体とした分子生態学的な解析から海底堆積物環境には系統分類学的に多種多様な微生物が生息し、それらの多くが未培養系統分類群に属することが明らかになっている。つまり、海底堆積物環境では微生物の代謝活動により物質循環が行われているにも関わらず、その反応を担う個々の微生物の詳細は殆ど理解されていないのが現状である。本発表では海底堆積物環境に優占して生息していることが遺伝子解析から予見されていたChloroflexi門の未培養系等群に属する2種類の嫌気性細菌の培養の成功と、これら細菌の生理・遺伝学的な特徴を報告する。培養に成功したChloroflexi門細菌はAnaerolineae綱の新目を代表する細菌 (MO-CFX2株, 分離済み) とDehalococcoidia綱の新目を代表する細菌 (MK-GIF9株, 高度の集積培養系) である。これら2種類の細菌の分離あるいは集積培養には下降流懸垂型スポンジリアクターを用いた3~5年に渡る長期間の集積培養と数年間にわたるバッチ培養を組み合わせた方法により達成した。MO-CFX2株は有機物を多く含む下北半島沖海底堆積物 (水深1180m) から、MK-GIF9株は紀伊半島沖のメタン冷湧水帯堆積物 (水深2533m) から得た。これら細菌の増殖速度は極めて遅く菌体収量も低いために、1回のバッチ培養に数ヶ月の時間を要した。そこで適切な培養条件を探し出すために、これら2つの培養系に対して(メタ)ゲノム解析を行った。得られたゲノム情報に基づき、培養条件の変更を行ったところ2つの細菌共に増殖速度および菌体収量を向上させることができた。この2種類のChroloflexi門細菌は糖類あるいはアミノ酸等を利用して発酵により生育することが可能であった。またゲノム解析および培養実験からMO-CFX2株はハロゲン化合物を利用した嫌気呼吸する可能性が、MK-GIF9株は硫黄化合物を利用して嫌気呼吸する可能性が示された。以上の結果からこれらの細菌は多能なエネルギー獲得様式を持っていることが強く示唆され、この多様な代謝を持つことがChloroflexi門細菌が海底堆積物環境で優占化する理由であると考えられた。