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水溶性天然ガス田においてメタノール分解のみを担う新規メタン生成アーキアの分離同定
【背景と目的】商業的に重要とされる世界の油ガス田等の貯留メタンの少なくとも20%は微生物活動により生産されたと見積もられている。このうち日本の水溶性天然ガスのほとんどは、堆積有機物の微生物分解により生成した生物起源のメタンであり、主に千葉県や新潟県から産出されている。これらのガス田には様々なメタン生成アーキアが活性を保持して存在していることを明らかとしてきたが、地層中のどのような有機物がどのような分解経路によりメタンへと変換されているのかについて多くは未解明である。本研究では、水溶性天然ガス田における堆積有機物の微生物分解メタン生成過程を明らかにすることを目的とし、新潟県のガス田から採取した試料を用いて、メタン生成アーキアに着目した系統解析を行い、検出された新規メタン生成アーキアの分離同定を行った。
【方法】深度約1000 mに貯留層がある新潟県の水溶性ガス井から、ガス、地層水、砂を嫌気的に採取した。ガス中のメタンの炭素安定同位体比と地層水のイオン組成の分析を行った。砂試料を対象に16S rRNA遺伝子によるアーキアの菌相解析を行った。遺伝子解析により検出された新規メタン生成アーキアを分離培養し、温度、pH、 塩濃度などの至適生育条件の特定、基質として利用可能な有機物の同定を行った。また、近縁のメタン生成アーキアを購入し、基質資化性について比較を行った。
【結果と考察】メタンの炭素安定同位体比は-64.4‰で微生物起源のメタンであることが示唆された。遺伝子解析の結果Methanobacterium属、Methanocalculus属、 Methanolobus属に近縁の配列が検出された。このうちMethanolobus属に近縁のメタン生成アーキアの分離に成功し、その系統分類学的同定を行った。本アーキアの生育至適温度は現地温度に一致する40-45℃であり、至適 pH・塩濃度とも現地条件に一致した。Methanolobus属には8種が知られており、いずれもメタノールとメチルアミン類を共に資化出来るが、本研究で分離したメタン生成アーキアは唯一メタノールのみを資化するものであった。このことから、堆積有機物分解メタン生成過程のメチル化合物分解経路においてメチルアミン類ではなく、メタノールの分解が重要であることが推察された。