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海洋単離株FT01は金属腐食を引き起こして鉄飢餓状態を脱する
微生物金属腐食を引きおこす原因菌として硫黄酸化細菌, 硫酸塩還元菌やメタン生成菌が主要なものとされている. しかし, 近年ではそれらの細菌が存在せずとも微生物金属腐食と考えられる現象が見られており, 原因の特定が困難であることから問題となっている. 微生物による金属腐食部では細菌が自身の代謝産物である細胞外マトリクスを身にまとったバイオフィルム (BF) の形成が観察されている. しかし, 微生物金属腐食とBFの関係についての知見は少ない. 先行研究において千葉県富津湾より単離された細菌FT01は金属腐食能を有することが明らかとなった. 共焦点顕微鏡によりFT01は自然海水中でステンレス表面上に立体的なBFを形成し, BF下のステンレス表面には腐食孔と推測される孔が観察された. 興味深いことに16S rRNA解析によりFT01の属を決定したところ, 本属菌による微生物金属腐食の報告は無かった. 当研究ではFT01の形成するBFと金属腐食現象に何らか関係があると考え, FT01の金属腐食メカニズムの解明を目的とした. 主な解析手法としてCOCRM法やCLSM法などの顕微鏡手法を用いた.
海水模倣培地中で培養した場合, 自然海水を培地として用いた際と比較して, 立体的なBFの形成は見られず, ステンレス上における腐食孔も観察されなかった. 自然海水中においては鉄イオンが枯渇することが知られているため, 海水模倣培地の組成から鉄化合物を除いた培地で同様の観察を行った. ステンレス非存在下ではFT01の生育は見られなかったが, ステンレスを浸漬するとFT01の生育の増加が観察された. さらに, ステンレス表面には立体的なBFの形成がみられ, BF下には腐食孔が観察された. この結果からFT01は鉄飢餓状態において, 腐食により溶出した鉄イオンによって生育していることが示唆された. 次に, 培養ウェルに孔径0.2 μmのフィルター付きインサートを設け, FT01のステンレス表面への直接付着を阻害したところ, FT01の生育の増加およびステンレス表面における腐食孔は観察されなかった. このことから, 腐食孔の形成にはステンレス表面上へのFT01の直接接触およびBFの形成が必須であると考えられる. 以上のことから, 鉄飢餓状態に陥ったFT01はステンレス表面への直接接触およびBFの形成により腐食を誘導し, 溶出した鉄イオンによって生育を可能としていると考えられる.