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演題詳細

P-175:
発酵的ATP合成を行う嫌気呼吸:Shewanella oneidensis MR-1における細胞外電子移動
○徳納 吉秀1, 橋本 和仁2, 岡本 章玄2 1東京大・院工, 2物質材料研究機構 tokunou@light.t.u-tokyo.ac.jp
ある種の微生物は、代謝生成した電子を細胞外の固体まで伝達させる「細胞外電子移動(Extracellular Electron Transfer, EET)」を可能とし、近年その機構が盛んに研究されている。プロトン濃度勾配を形成する役割を持つ内膜電子伝達系に対して、EETにおける外膜にまで伸長された電子伝達鎖では、エネルギーを獲得する機構は明らかとなっていない。そこで本研究では、EETを行うモデル鉄還元細菌であるShewanella oneidensis MR-1を用いてプロトンの局在性や速度論に関する検討を行った。EETを介した嫌気呼吸でのATP合成経路を調べるため、プロトン濃度勾配からATPを合成するF-ATPaseを欠損させたS. oneidensis MR-1変異株と野生株の増殖速度を比較した。プロトン濃度勾配を利用して合成したATPを主なエネルギー源とする好気呼吸条件の下培養した際には、予想通り欠損株の増殖速度は大きく低下した。一方で、電極を用いて定電位を印加したEET呼吸の場合には、驚くべきことに欠損株は野生株と同等の増殖速度を示した。以上の結果は、EETが通常の電子伝達系を用いた呼吸と異なり、プロトン濃度勾配を利用したATP合成を行っていないことを示している。さらに、発酵において基質レベルのリン酸化によるATP合成に用いられる酵素(Pta、AckA)を欠損させた際には、EET呼吸での著しい増殖速度の低下が認められた。すなわちEETは、電子伝達系を用いる呼吸であるにもかかわらず、発酵的なATP合成経路によってエネルギーを獲得していることが強く示唆された。これは同時に、内膜電子伝達系においてペリプラズムまで汲みあげられたプロトンが、ATP合成に用いられず、細胞外に排出されている可能性を示している。当日は、この仮説検討のために行った重水添加による速度論的同位体効果の詳細について発表する。
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