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演題詳細

P-178:
特定波長の太陽光線が海洋に遍在するThaumarchaeota門古細菌の有光層における分布へ与える影響の評価
○伊知地 稔1, 塩崎 拓平2, 藤原 周2, 眞壁 明子1,2, 吉川 知里2, 川口 慎介2, 西野 茂人2, 原田 尚美2, 木暮 一啓1 1東京大・大海研, 2JAMSTEC nitrification@aori.u-tokyo.ac.jp
制限文字数(スペースを含む)は全角1000文字、半角2000文字になります。窒素は海洋の基礎生産を律速する最大の要因であり、窒素循環により供給される硝酸態窒素が重要な窒素源である。硝酸態窒素を供給する唯一の生物過程である硝化は、アンモニア酸化と亜硝酸酸化の過程から成る。硝化を律速するアンモニア酸化の主要な担い手は、独立栄養性無機化学合成古細菌であり、その属する古細菌のグループ(現在はThaumarchaeota門という名称が提案されている)が全海洋の原核生物数の約20%、深海の40-50%を占めると推定されている。さらに、無機化学合成生物であるThaumarchaeota門古細菌は基礎生産者であり、現場観測の培養法や非培養法による研究から炭素循環へも寄与しているという知見が得られている。海洋に遍在しているThaumarchaeota門古細菌であるが、有光層上部では有光層下部と比較し桁違いに現存量が少ない。この現象は太陽光線によってThaumarchaeota門古細菌の呼吸であるアンモニア酸化が阻害されるためであり、海洋分離株に白色光を照射する培養実験から、強光下ほどアンモニア酸化が阻害されると報告されている。故に、光阻害がThaumarchaeota門古細菌の現存量に影響すると考えられている。しかし、既往研究や申請者の研究で、Thaumarchaeota門古細菌の現存量が有光層上部で有光層下部と比較し桁違いに少ない海域と、同等な海域が報告されている。強光による光阻害が原因であるとすると、現存量が有光層上部でも有光層下部と同等な海域の存在を上手く説明できない。一方で、淡水湖の堆積物から分離されたThaumarchaeota門古細菌は、特定の波長の光でのみアンモニア酸化が阻害されるという報告がある。そして、太陽光線は波長によって到達する水深が異なるので、単純な光強度ではなく、特定波長の光強度がThaumarchaeota門古細菌の分布に影響している可能性がある。つまり、特定波長の光が到達する有光層上部以浅でThaumarchaeota門古細菌の現存量が少ないのではないか? 本発表では、現場観測による鉛直的な光の波長および光強度と、Thaumarchaeota門古細菌の現存量および硝化活性の変化の関係から、どの波長の光がThaumarchaeota門古細菌の有光層における分布に影響しているかを報告する。
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