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演題詳細

P-179:
海洋性フラボバクテリアにおける、プロテオロドプシンを介した光利用と光防御のトレード・オフ
○熊谷 洋平1, 吉澤 晋1, 小椋 義俊2, 林 哲也2, 木暮 一啓1, 岩崎 渉1,3,4 1東京大学 大気海洋研究所, 2九州大学 医学研究院 基礎医学部門, 3東京大学 大学院新領域創成科学研究科 メディカル情報生命専攻, 4東京大学 大学院理学系研究科 生物科学専攻
バクテロイデス門細菌は海洋表層においてプロテオバクテリア、シアノバクテリアに次ぐ優占種であり、フラボバクテリア綱はバクテロイデス門細菌の中で最も存在量の多いグループである。海洋表層に生息するフラボバクテリアには完全に従属栄養的に生活するものと、光駆動型のプロトンポンプであるプロテオロドプシン(PR)を持ち、従属栄養的なエネルギー獲得に加え光エネルギーを介したATP生産を行うものが存在する。ここで、PRは海洋表層細菌の約半数が持つことから海洋表層への適応に重要な遺伝子であると考えられている。
しかし、海洋性フラボバクテリアにおいては表層分離株であっても進化的にPRを欠失させたと考えられる株が存在し、このことは海洋表層環境においてもPRを持つことが必ずしも適応的に働かないケースの存在を示唆する。このような背景のもと、本研究では、PRを持つ細菌とPRを持たない細菌の生理生態の違いからそれぞれの適応戦略を明らかにするため、海洋性フラボバクテリア76株を用いてPRを持つ株(PR+株、35株)とPRを持たない株(PR-株、41株)のゲノムを比較した。
比較ゲノムの結果、全てのPR+株はフレキシルビン色素の合成系を欠失していることがわかった。フレキシルビンは細胞外膜に局在する色素であり、細胞内への光の透過を妨げると考えられる。また、PR+株はPR-株に比べ多くのUVダメージ耐性遺伝子を持つ一方で、PR+株の多くは光感受性の補因子(Vitamin B12)依存のDNA合成遺伝子を持たなかった。これらの事実から、海洋性フラボバクテリアにおける細胞内膜上の光利用遺伝子(PR)と外膜上に存在する色素(フレキシルビン)には以下のようなトレード・オフ関係が存在することが示唆された。
1. 細胞内膜上のPRを機能させるためには外膜上の色素(フレキシルビン)の欠失が必要
2. 外膜上の色素を欠失させると細胞内の光ダメージが増加する
3. 光防御のための遺伝子を多く持つ必要が生じ、また光感受性の補因子の利用に制限が生じる
本発表では、このようなトレード・オフ関係からPRを持つフラボバクテリアとPRを持たないフラボバクテリア、それぞれの適応戦略について議論していきたい。
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