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演題詳細

P-180:
紅色光合成細菌Rhodopseudomonas palustrisにおける炭素源飢餓条件下での光合成遺伝子の発現
○菅野 菜々子, 花田 智, 松浦 克美, 春田 伸 首都大・院生命 n_kanno@tmu.ac.jp
自然環境中での栄養源供給は不安定であり、細菌はしばしば栄養源飢餓を経験する。紅色非硫黄光合成細菌は嫌気条件下で光合成により光エネルギーを利用してATPを合成する。これまでの研究で紅色光合成細菌は炭素源飢餓条件でも、光照射下では数週間生残することを報告しており、紅色光合成細菌にとって光合成機能は環境で生き延びるための重要な手段といえる。本研究では紅色光合成細菌が炭素源飢餓の非増殖条件下で光合成機能をどのように維持しているのかを明らかにすることを目的に、飢餓条件下における光合成遺伝子の発現および光合成器官と光合成能を、光照射の有無に注目して調査した。
紅色光合成細菌Rhodopseudomonas palustrisを使用した。炭素源制限培地を用いて光嫌気条件で培養し炭素源枯渇によって増殖停止したところから飢餓とした。飢餓細胞を明条件と暗条件に分け、飢餓5日後に全RNAを抽出し、全ORFを対象にしたマイクロアレイを用いて転写物を解析し、飢餓直後の細胞と比較した。rRNAの発現量に対して1/1000発現量以上の遺伝子数は、飢餓直後および明条件では全遺伝子中32%および27%だったが暗条件では3%のみであり、暗条件のmRNA転写活性は低いことが示唆された。光合成関連遺伝子のうち、光捕集系タンパク質の遺伝子に注目すると、飢餓暗条件でも、飢餓直後や飢餓明条件と変わらず、発現遺伝子の中で高発現していた。培養液の近赤外光吸収スペクトルを測定し光捕集系複合体LH2に特有の吸収ピークの二次微分強度を解析したところ、飢餓5日間経過による顕著な変化は見られなかった。飢餓暗条件の細胞では、生残性は維持しているもののATP量が低下している。しかし1分間光照射すると、飢餓直後や飢餓明条件の細胞と同程度までATPレベルが回復した。
R. palustrisでは炭素源飢餓の非増殖条件で光照射の有無に関わらず光捕集系タンパク質の遺伝子が高発現しており、暗条件下の細胞も光合成によるATP合成能を保持していた。これは飢餓環境で積極的に光合成器官を維持する戦略をとることを示唆している。光合成関連遺伝子の中でも光捕集系タンパク質の遺伝子が高発現していたことから、今回の解析では光捕集系複合体の吸収スペクトルに大きな違いは見られなかったものの、光捕集系が飢餓適応している可能性も考えられた。
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