Imgheader01

第31回大会ホームページへ

演題詳細

P-182:
光合成滑走細菌Chloroflexus aggregansの青色光による運動抑制と逃避行動
○福島 俊一, 春田 伸, 花田 智 首都大学東京 fukushimash1986@gmail.com
 Chloroflexus aggregansは通性嫌気性光合成細菌であり、バクテリオクロロフィルcを主な光合成色素として、469nm、743nm近傍の光を利用した光合成を行う。数十から数百の細胞が直列に繋がった糸状体を形成し、直進的な高速滑走運動をする。本細菌はアルカリ温泉において観察される高密度な微生物群集(微生物マット)の主要構成種として、広く見つかっている。自然環境下では、昼夜サイクルなどの光条件の変動に対応する必要がある。これまで滑走運動に対する他細菌や酸素の影響は調べられてきたが、光に対する挙動は知られていない。本細菌の光と運動の関係性を明らかにすることは、運動による環境変動への適応戦略の理解に貢献する。本研究では、C. aggregansの運動が、種々の光の波長によって受ける影響を明らかにすること目的とした。
 糸状体のガラス表面上での動きに光が与える影響を、光学顕微鏡下で観察した。位相差観察用の白色光に加えて、水銀ランプ光源からバンドパスフィルターを通して特定波長域の光を視野全体に照射し、波長ごとの運動速度を比較した。波長395-440nmの青色光を照射したところ、糸状体の運動は照射した光の強さに依存して抑制された。照射を中止した後、運動速度は時間依存的に回復した。一方、波長450-490, 537-557, 625-655nmの照射光では運動速度の抑制は見られなかった。
 波長395-440nmの光を視野中央の直径300μm程度の範囲に絞って照射し、その影響を観察した。ここでは、細胞密度を高くして、細胞集団全体の動きに注目した。上述のように青色光照射領域中央の糸状体の運動は抑制されていた。一方照射領域の縁では、数百μmの糸状体が並列に寄り集まり、相互の細胞表面を滑走運動した。時間経過に伴い、照射領域内の細胞は、照射領域外の細胞に引っ張られるように青色光から逃避する方向に移動していく様子が観察された。上述の他の波長域の光に対しては、このような方向性のある細胞集団の運動は観察されなかった。
 本研究では、波長395-440nmの青色光がC. aggregansの運動性が抑制されることを見出した。青色光による運動速度の抑制は滑走細菌では初めての報告である。微生物マット内では、青色光を受けて運動を抑制することで、青色光の影響を受けない他の糸状体の滑走運動により、手繰り寄せられるようにして青色光を含む短波長の光から逃れられるのではないだろうか。
PDF