Imgheader01

第31回大会ホームページへ

演題詳細

P-187:
深海底熱水活動域に生息する固有甲殻類の共生器官“腹部剛毛”の構造的特徴
○藤吉 奏1, 和辻 智郎2, 澤山 茂樹1, 中川 聡1,2 1京都大・院農, 2JAMSTEC fujiyoshi.so.62w@st.kyoto-u.ac.jp
暗黒・高水圧の深海底熱水活動域に生息するほぼすべての無脊椎動物は、化学合成細菌と共生関係を構築することで栄養を獲得している。深海の固有甲殻類であるゴエモンコシオリエビは、腹部剛毛に細菌を付着させ、それらを摂餌し生活している。共生器官である剛毛にのみ付着共生細菌が密集することから、剛毛の構造に付着共生を促す機構があると予想された。そこで、本研究ではゴエモンコシオリエビと非共生性甲殻類における剛毛の構造的な違いを見出し、またその構造的差異がもたらす物性を特徴づけることにより、異種生物間相互作用機構の解明を目指した。沖縄の伊平屋北熱水活動域で行われた調査航海においてゴエモンコシオリエビを捕集、船上で甲長サイズに依り3グループに分類し、腹部剛毛を採集した。2種類の非共生性甲殻類としてモクズガニ(非共生性だが鋏足に豊かな剛毛を有する)および、オオコシオリエビ(ゴエモンコシオリエビに比較的近縁な種)の腹部剛毛(モクズガニは鋏足剛毛を含む)を採集した。各剛毛を顕微鏡で観察し、その太さと剛毛から生える針状構造(スパイク)の長さを測定した。各剛毛の構造を元に、剛毛周りの水の動きのシミュレーションを行った。また各剛毛に対する微粒子の付着性を調べるため、各剛毛と微粒子を混合し、顕微鏡下で剛毛に付着している微粒子数と剛毛の長さを測定した。微粒子数を剛毛の長さで除算し、各剛毛の微粒子付着率を算出した。ゴエモンコシオリエビ腹部剛毛の太さは甲長サイズに依って有意に異なり(p<0.01)、大きいほど太かった。しかしスパイクの長さは、甲長サイズに依らず一定の長さであった。また、ゴエモンコシオリエビ腹部剛毛のスパイク長は他の甲殻類剛毛のスパイクよりも有意に短く、一番長かったモクズガニ腹部剛毛スパイク長の15分の1程度であった。スパイクの長さと剛毛周りの流体シミュレーションの結果、スパイクが長いほど剛毛近辺の水の動きは停滞することから、スパイクが短いほど毛と水中の分子または微粒子が接触する頻度が高いことが示唆された。各剛毛と微粒子を混合したところ、ゴエモンコシオリエビ腹部剛毛は他の甲殻類剛毛よりも有意に微粒子付着率が高かった。つまり、ゴエモンコシオリエビにおいて腹部剛毛のスパイクが短いことは、剛毛と周囲の微生物の付着頻度の上昇や物質交換の効率化に寄与することが示唆された。
PDF