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浅海性無脊椎動物のマイクロバイオーム:特異Helicobacterの発見と飼育実験
【目的】Epsilonproteobacteria綱の微生物は、深海底熱水活動域において多様な無脊椎動物と共生関係を結ぶ一方で、陸上においては、ピロリ菌(Helicobacter pylori)やCampylobacter jejuniに代表されるような、人類に蔓延する疾患の原因微生物でもある。これまで我々の研究グループは、深海の共生微生物であるEpsilonproteobacteriaが、陸上の病原性微生物であるEpsilonproteobacteriaの祖先的な性質を有することを突き止めてきたが、その進化の過程には大きなミッシングリンクが存在した。そこで本研究では、浅海域で採取した無脊椎動物の消化管や体腔液等に含まれる微生物群集構造を解析した。【方法】培養可能な微生物の密度・多様性を解析するため、数種類の寒天培地を用いて、微好気条件下かつ複数の温度で培養を行った。形成されたコロニーを純化後、分離株の16S rRNA遺伝子の塩基配列に基づく系統解析を行った。さらに、試料から直接DNAを抽出し、次世代シーケンサ―による16S rRNA遺伝子のアンプリコン解析を行った。加えて、これらの結果に基づき、特徴的な微生物について定量PCRやFISH法、電子顕微鏡観察、宿主の飼育実験によって、それらの存在量・局在性・形態等を解析した。【結果】群集構造解析の結果、特定の地域において採取したヒトデ類の体腔液にのみ、特異的で新規性の高いHelicobacter属細菌(既知種との16S rRNA遺伝子の相同性が~93.4%)が優占して生息していることが明らかとなった。Helicobacter属の細菌は陸上に住む脊椎動物の消化管に生息する病原菌・常在菌として知られている。しかし今回発見されたこの細菌は、海洋性で無脊椎動物を宿主とし、消化管以外に生息する世界初のHelicobacterである。さらに電子顕微鏡観察により、本Helicobacterと思われる微生物細胞に特徴的な構造物を見出した。加えて、定量PCRやFISH法による解析の結果、ヒトデ体腔液における本Helicobacter属細菌の優占度は、海域によって大きく変動することが明らかとなった。現在、本Helicobacter属細菌の性状や機能をさらに詳しく解析している。