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長期に隔離された共生微生物群集では群集レベルの競争が生じるか?
異なる生物群集が融合した際の群集の動態には未解明な点が多い。Gilpin (1994)は、競争を経て安定になった2つの群集を融合させると、融合後の群集の種組成が片方の親群集の組成に収束しやすくなる事をシミュレーションで示し、「群集レベルの競争」が生じる可能性を提示した。長期に隔離された群集でこの傾向は強まると思われるが、自然群集を用いた検証は行われてこなかった。 シロアリの腸内には原生生物や細菌からなる微生物群集が存在し、構成種は代謝を介し強く相互作用する。私達がヤマトシロアリとカンモンシロアリの2種を交雑させ、シロアリ種に特異的な原生生物群集を混合させた実験では、交雑コロニーの原生生物群集は、1コロニーを除きヤマト型の種組成に収束した。ただし形態に基づく同定だけでは、2種のシロアリが共有する原生生物種の継承パターンは不明であった。
本研究では、2種のシロアリの野外コロニーと2つの交雑コロニーの個体の腸内からDNAを抽出し、共生微生物のSSU rRNA遺伝子の部分配列を標的に、パイロシーケンスによる網羅的配列解析を行った。野外コロニーから検出された原生生物の配列には、シロアリの種に特異的なものが含まれた。交雑コロニーの個体からは、ヤマトに特異的な原生生物属の配列は検出されたが、カンモン特異的な原生生物属の配列はほぼ検出されなかった。親種が共有する原生生物の種については、ヤマト特異的な配列は全て交雑コロニーに継承されたが、Teranympha属を除きカンモン特異的配列は引き継がれなかった。以上の結果から、交雑コロニーの原生生物は、共通種を含めほぼヤマトのものに収束したといえる。一方、細菌を対象とした解析では、原生生物細胞に共生する細菌を除き、明らかに偏った継承パターンは見いだされなかった。
原生生物群集では、構成種間の共適応が群集構成種の強固な結びつきをもたらし、ほぼ群集レベルの競争といえる継承パターンを引き起こしたと考えられる。また、別種のシロアリ集団が野外で交雑した場合、交雑後のコロニーでは共生原生生物群集の種組成は必ずしも一通りにならないが、世代を経ると集団は急速に特定の組成に収束すると予測される。