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セン毛虫Tetrahymena thermophilaの細胞外分泌物が細菌の群集構造に及ぼす影響
細菌の捕食者である原生動物が細胞外に分泌する物質(protozan extracellular exudates, PECE)によって生残性や生育が促進される細菌が存在すると仮説を立てて研究を行った。モデル原生動物として無菌株が得られているセン毛虫Tetrahymena thermophilaを用いた。2つの培養槽を孔径0.1μmのメンブレンフィルターで隔てた二槽式培養器を作成した。一方の培養槽でT. thermophilaと淡水由来の細菌群集を混合培養し(BT区,PECEあり・捕食あり),他方の培養槽には細菌群集のみを培養した(B/BT区,PECEあり・捕食なし)。対照として細菌群集のみの培養系(B区,PECEなし・捕食なし)を設定した。暗所25°Cにて好気的に培養しながら適宜,細菌DNAを抽出し,PCR法にて増幅したSSU rRNA遺伝子をDGGE法にて分離し,得られたバンドパターンに基づき細菌群集構造を解析した。また,各培養区の細菌密度を経時的に測定した。その結果,BT区においては群集構造が培養の経過にしたがい大きく変化し,培養10日目には培養開始時とは大きく異なる構造となった。いっぽう,B/BT区においては群集構造が大きく変動することがなく,培養10日目においても培養開始時とほぼ類似した構造を維持した。またB区においては培養6日目まではB/BT区と類似した群集構造であったが,10日目には大きく異なる構造となった。細菌密度は全ての培養区において初期密度の5×106mL-1から,培養4日目までには約1×107まで上昇した。それに伴い,BT区においてはT. thermophilaの細胞密度が上昇した。その後,細菌密度は培養期間の経過に伴い低下し,培養10日目には6×106まで低下した。いっぽう,B/BT区およびB区においては培養10日目にはそれぞれ8×106および5×106に低下した。以上の結果から,BT区において細菌群集構造が大きく変化した理由は,細菌密度の増加に伴いT. thermophilaが細菌種を選択的に捕食したためと考えられる。B区において群集構造が変化した理由は,いったん増加した細菌が死滅するとき,種ごとに生残性が異なるためであったと考えられる。いっぽう,B/BT区においては,BT区やB区と比較して細菌密度の低下の程度が低く,細菌群集構造が比較的安定的に維持された理由は,PECEが細菌の増殖・生残を促進したためと考えられる。本研究より,PECEが細菌群集構造に影響を及ぼす可能性のあることが示された。