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演題詳細

P-196:
シングルセルトランスクリプトームに基づくイエシロアリ共生原生生物の機能解明
○西村 祐貴1, 小田切 正人2, 雪 真弘2, 守屋 繁春2, 大熊 盛也1,2 1理化学研究所 バイオリソースセンター, 2理化学研究所 環境資源科学研究センター yuki.nishimura@riken.jp
シロアリの腸内では多種多様な細菌・古細菌・原生生物が混在する多重共生系が存在していることが古くから知られており、木質という非常に分解困難かつ栄養が偏った物質のみ取り込みながら、熱帯地域で莫大なバイオマスを誇る宿主(シロアリ)の繁栄に大きく貢献している。シロアリが食害した木質は主に原生生物が分解し、宿主への炭素供給源となっている。さらに腸内に共生している細菌が窒素固定を行うことで、木質からは取り込むことのできない窒素源を補っている。しかしながら、なぜ多様な微生物から共生系が構成されているかについては未だに十分な説明ができていない。そこで個々の微生物種がどのような役割を担っているかを明らかにすることが望まれるが、腸内微生物のほとんどが培養不可能であることが詳細な機能解析を阻んでいる。
イエシロアリ腸内には3種の真核微生物(Pseudotrichonympha grassiiHolomastigotoides mirabile, Spirotrichonympha leidyi)が生息している。本研究では各々の種が共生系で果たす役割を明らかにするために、それぞれの単一細胞からトランスクリプトームデータを取得した。得られたデータから遺伝子配列とその発現量を推定し、3種間で発現遺伝子にどのような違いがあるのかを検討した。その結果、S. leidyiにおいてのみ多量のキチン分解酵素(キチナーゼ)の遺伝子が発現していることが判明した。また、S. leidyiでのみキチン分解産物であるN-アセチルグルコサミンをアンモニアとフルクトース6リン酸にまで分解する遺伝子を有していることが示された。そこでイエシロアリの後腸から真核微生物3種が混在する画分と、H. mirabile及びS. leidyiの2種のみが存在する画分に分離した。その後それぞれの画分からタンパク質を粗精製し、2種から抽出したタンパク質の方が有意にキチナーゼ活性が高いことを確認した。すなわちイエシロアリ腸内に共生する3種の微生物のうち、S. leidyiが主体的にキチンの分解に関わっていることを示している。このことからS. leidyiは宿主が脱皮した後に摂食した体表や、グルーミング等によって取り込まれた菌類を分解することで、効率的な窒素源の利用や菌糸感染からの防衛に貢献していると考えられる。
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