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シロアリ腸内原生生物に共生する Desulfovibrio 属細菌のゲノム解析による3者間共生システムの解明
○桑原 宏和1, 雪 真弘2, 伊澤 和輝1, 大熊 盛也2,3, 本郷 裕一1,3
1東工大・生命理工学院, 2理研・BMEP, 3理研・JCM
シロアリは植物枯死体のみを餌とし、腸内にセルロース分解性原生生物、真正細菌および古細菌を共生させている。その原生生物の中には、細胞内、表面、さらには核内に複数の真正細菌が共生するものがあり、多重な共生関係が存在する。しかしながら、培養成功例が無いため共生機構の詳細は不明であった。ヤマトシロアリ腸内原生生物 Trichonympha agilis は普遍的に2種類の真正細菌を共生させ、1つは細胞質内に共生する ”Candidatus Endomicrobium trichonymphae” でゲノムが解読されている。もう1つは T. agilis の鞭毛基部近傍のヒドロゲノソームが多く見られる部位に局在し、ほぼ細胞内共生であるが一部が開口している ”Candidatus Desulfovibrio trichonymphae” である。本研究では ”Ca. Desulfovibrio trichonymphae” をマイクロメスで分取し、全ゲノム増幅後、Illumina MiSeq によるシーケンス、およびゲノム解析を行った。その結果、1.4 Mbの完全長ゲノム配列の再構築に成功した。”Ca. Desulfovibrio trichonymphae” は、多くの偽遺伝子があり、近縁の Desulfovibrio desulfuricans (2.8 Mb) と比べ小さなゲノムを持っていた。一方、多くのアミノ酸、補酵素合成系遺伝子を保持し、それらは同時共生細菌と一部相補的になっていた。興味深いことに、それら共生細菌祖先間でアミノ酸トランスポーター (AroP) の遺伝子水平伝播が起こったことが明らかとなった。さらに、”Ca. Desulfovibrio trichonymphae” は、水素を硫酸還元またはフマル酸呼吸により酸化する複雑な代謝系も保持し、宿主および同時共生細菌から発生する水素を消費して宿主のセルロース分解を促進していると考えられる。また、”Ca. Desulfovibrio trichonymphae” は、宿主と同時共生細菌が生成する酢酸、二酸化炭素を炭素源とし、さらには、宿主が合成するリンゴ酸を取り込み、フマル酸呼吸を行うというように、3者間で効率的に代謝産物を利用していると考えられる。本研究により、シロアリ腸内原生生物における複雑な共生システムの一端が明らかとなった。