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演題詳細

P-198:
マルチオミクス解析でサンゴと微生物の相互作用を推定する
○丸山 徹1, 伊藤 通浩2, 若王子 智史1, 新里 宙也3, 藤村 弘行4, 中野 義勝2, 須田 彰一郎4, 竹山 春子1,5 1早大院・先進理工, 2琉大・熱生研, 3OIST・マリンゲノミクス, 4琉大・理, 5早大・ナノライフ marui-25@fuji.waseda.jp
【背景】サンゴは褐虫藻、共在細菌叢と共同体を作り、密接に関係している。褐虫藻はサンゴの細胞内に共生する微細藻類であり、光合成によってサンゴが要求する炭素源の大部分を産生する。褐虫藻との共生関係は脆く、温度上昇などのストレスが加わると褐虫藻は細胞内から失われる。この共生関係の崩壊は、世界的に減少を続けるサンゴの主要な死因の一つとされている。また、サンゴの共在細菌叢に関しても、その菌叢組成の異常がサンゴの健康状態に影響することが報告されている。以上の事例から、褐虫藻・共在細菌叢を含む共同体レベルでサンゴの生理・生態を理解することが重要であると考えられる。しかしながら、温度変化に応じて褐虫藻との共生関係が崩壊する機構や、細菌叢がサンゴに影響を与える機構など、その詳細には謎が多い。
【方法】本研究では、この共同体で行われる相互作用の理解に向けて、サンゴ・褐虫藻・共在細菌叢のマルチオミクス解析を実施した。2014年11月から2016年3月の間に計7回、沖縄県瀬底島周辺の3地点からウスエダミドリイシ(Acropora tenuis)7群体を採取し (1)サンゴ・褐虫藻のmRNAの同時RNA-seqと(2)サンゴ共在細菌叢の16S rRNAアンプリコンシーケンスを実施した。
【結果・考察】(1)サンゴ・褐虫藻の遺伝子発現プロファイル、共在細菌叢の組成はそれぞれ独立した変動パターンを示した。サンゴの発現プロファイルは群体ごとに、褐虫藻の発現プロファイルは季節ごとに、細菌叢の組成は地点・群体ごとに変動することが判明した。(2)一方で、一部の遺伝子群に関してはサンゴと褐虫藻の間で強く共発現することが見出された。これらの遺伝子群の解析から、褐虫藻の細胞分裂が宿主細胞内で抑制される分子機構など、サンゴと褐虫藻の幾つかの相互作用を推定することができた。(3)海水温度の上昇に伴って発現が亢進するサンゴの遺伝子群を見出した。他のサンゴ種のRNA-seqデータを同様に解析した結果、この遺伝子群は他のサンゴ種でも高温条件下で発現上昇することが確認された。また、この遺伝子群には、褐虫藻と共生する刺胞動物(サンゴ・イソギンチャク)に進化的に保存されている機能未知の遺伝子も多数含まれていた。以上の点から、サンゴの高温ストレス応答に関わる機能未知の遺伝子群が抽出された可能性が示唆された。
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