P-200:
氷河に特化した無脊椎動物の共生細菌群集構造解析
○村上 匠
1, 瀬川 高弘
2,3,4, 竹内 望
5, Dial Roman
6, Labarca Pedro
7, Sepulveda Gonzalo B.
8, 幸島 司郎
9, 本郷 裕一
1
1東工大 院生命理工, 2山梨大 総合分析実験センター, 3極地研, 4新領域融合センター, 5千葉大 院理, 6Alaska Pacific Univ., Alaska, USA, 7Centro de Estudios Cientificos, Chile, 8Direccion General de Aguas, Chile, 9京大 野生動物研究センター
tmurakami@bio.titech.ac.jp
氷河は年間を通じて雪氷に覆われた低温極限環境であるが、環境に適応した無脊椎動物・藻類・細菌などからなる独特な生態系が存在する。こうした氷河に生息する生物、特に藻類や細菌といった微生物の生態や多様性に関する研究が進む一方で、氷河環境に特化した大型無脊椎動物に関する情報は未だ限定的である。我々は、動物に共生する細菌群集が宿主動物の生存や、生息環境の物質循環に寄与するという知見に着目し、氷河無脊椎動物の腸内や体表に共生する細菌叢の群集構造解析を行った。 実験には、アラスカの氷河に生息するコオリミミズと南米パタゴニアの氷河に生息する氷河カワゲラを用いた。比較対象として生息氷河表面の細菌叢も同時に解析した。DNAとRNA試料の双方から16S rRNA配列をPCR増幅した後にMiSeqを用いて網羅的に配列を取得した。解析の結果、コオリミミズ・氷河カワゲラともに、生息氷河表面と大きく異なる細菌群集を保持していることが判明した。共生細菌群集の構成種は、動物腸内特異的な細菌系統と氷河由来の細菌系統の2群に大別された。RNA試料を基にした解析により、これら2群の双方が細菌群集内で活動的であると示唆された。また、コオリミミズにおいて、一部の氷河由来細菌種は氷河表面ではなくコオリミミズからより顕著に検出された。これらコオリミミズに特徴的な氷河由来細菌種の内、Arcicella属の細菌種がコオリミミズ表皮に局在していることをFISHによる種特異的な検出により明らかにした。 以上の結果から、氷河無脊椎動物は動物腸内特異的な細菌種を、氷河環境への適応進化の過程でも保持し続けている一方で、氷河由来の細菌種とも共生関係を構築していると推察された。そして、これら無脊椎動物?細菌群集の共生系は氷河生態系において特異なニッチを占めていると示唆された。これらの情報は、氷河無脊椎動物の氷河適応過程や、氷河生態系における役割を解明する上で基盤になると考えられる。現在、共生細菌群集の持つ代謝機能の解明のため、氷河カワゲラの腸内細菌叢を対象としたメタゲノム解析を行なっている。この成果についても触れる予定である。