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シロアリ腸内原生生物のメタン菌細胞内共生による同所的種分化の可能性
○酒井 海帆1, 間渕 貴子1, 猪飼 桂1, 木原 久美子2, Lo Nathan3, 大熊 盛也4, 本郷 裕一1,4
1東工大・院生命理工, 2熊本高専・生物化学システム工学, 3シドニー大, 4理研・BRC-JCM
シロアリ腸内には1~10種類以上の木質分解性原生生物が常に同時共生している。なぜ、これら複数種の原生生物が互いに競争排除されずに共存し続けているのかは不明である。
オーストラリアにのみ生息するムカシシロアリの腸内にはMixotricha paradoxaという巨大な原生生物が共生している。Mixotrichaは1種のみからなる属として古くから知られ、特に細胞表面に付着するスピロヘータによる運動共生で有名である。我々は、このM. paradoxaの一部の細胞にメタン生成古細菌が細胞内共生しているのを発見した。しかも、メタン生成古細菌が共生している細胞としていない細胞では、形態に明確な違いが見られた。そこで、Mixotrichaを1細胞ずつ分取して全ゲノム増幅後、PCRによって18S rRNA遺伝子を増幅して解析を行ったところ、共生メタン菌の有無によって同遺伝子配列に2%以下の相違があり、系統的に分岐していることがわかった。また16S rRNA遺伝子配列に基づく分子系統解析によると、共生メタン菌は、シロアリ腸内を含む多様な環境に見られるMethanobrevibacter arboriphilusと99%の配列相同性を示した。これは、比較的最近に細胞内共生系が進化したことを示唆している。つまり、Mixotrichaの一部の系統がメタン菌と共生したことでニッチの分化が生じ、同所的種分化を引き起こしつつある可能性がある。