Imgheader01

第31回大会ホームページへ

演題詳細

P-202:
環境から獲得される細胞内共生細菌:ナガカメムシ類で見つかった腸内共生から細胞内共生へのミッシングリンク
○竹下 和貴1, 松浦 優2, 孟 憲英1, 三谷 恭雄1, 菊池 義智1,3 1産総研・生物プロセス, 2琉球大・熱生研, 3北大・院農 k.takeshita@aist.go.jp
多くの昆虫が体内の共生微生物と緊密な相互作用を行っているが、そのような共生関係の分子基盤やその進化プロセスに関してはいまだ不明な点が多い。特に昆虫における「細胞内共生」の進化は昆虫共生の理解において大いなる謎とも言える。多くの細胞内共生細菌が系統的に腸内細菌科に属することから細胞内共生の起原は腸内共生(細胞外共生)にあると考えられているが、その進化プロセスについては現在に至るまでほとんど分かっていない。最近我々は、斑点米カメムシの一種として知られるコバネヒョウタンナガカメムシ(ナガカメムシ上科・ヒョウタンナガカメムシ科)において、腸内共生から細胞内共生への遷移段階にあると考えられる興味深い共生系を発見したので報告する。
昆虫における多くの細胞内共生系は共生微生物の母子間伝播を伴い、宿主昆虫の系統において連綿と受け継がれていることが知られている。一方、ホシカメムシ上科、ヘリカメムシ上科、ナガカメムシ上科に属する多くのカメムシが共生細菌の母子間伝播を行わず、代わりに毎世代環境中から共生細菌(Burkholderia spp.)を獲得し、消化管後端部に位置する袋状組織(盲嚢)の内腔に保持する。ホソヘリカメムシ(ヘリカメムシ上科・ホソヘリカメムシ科)における先行研究では、Burkholderia腸内共生細菌は生存に必須ではないものの、体サイズの増加、成長期間の短縮、産卵数の増加に大きく寄与し、高い適応度効果を持つことが明らかとなっている。
本研究においてコバネヒョウタンナガカメムシの調査を行ったところ、他のカメムシ類と同様にBurkholderia共生細菌を毎世代環境中より獲得し盲嚢に保持することが確認された。しかし、共生細菌の適応度効果を調査したところ、非感染個体は成虫になることなく全て死亡し、必須共生であることが示された。さらに、詳細な電子顕微鏡観察を行ったところ、共生細菌は盲嚢の内腔だけでなくその上皮細胞内にも侵入し細胞内共生していることが明らかとなった。
昆虫において必須共生細菌を環境中から毎世代獲得し細胞内に保持する例はこれまで報告がなく、コバネヒョウタンナガカメムシは初めての例となる。今回発見した共生系は、腸内共生から細胞内共生への進化をつなぐミッシングリンクともいえ、これまでアプローチ困難だった細胞内共生の進化原理をひも解くための大きな足がかりになるかもしれない。
PDF