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演題詳細

P-219:
大気水素が紡ぐ共生関係:空中の水素を取り込む植物共生微生物の生態の解明
○菅野 学, 玉木 秀幸, 加藤 創一郎, 鎌形 洋一 産総研・生物プロセス manabu-kanno@aist.go.jp
水素は、約0.5 ppmvと微量ながら、メタンに次いで大気中に多く存在する還元性ガスである。近年になって、大気濃度レベルの希薄な水素を酸化しうる高親和性水素酸化細菌が土壌から発見され、大気圏の水素の約80%が陸圏に取り込まれる過程に主要な役割を担うと推定された。さらに、先の我々の研究で、高親和性水素酸化細菌は植物体にも広く棲息することが明らかとなった。しかし、大気水素の取り込みが微生物の植物共生に寄与するかは不明である。そこで本研究では、イネの体内より分離したStreptomyces属放線菌株が有する高親和性水素酸化酵素遺伝子の発現レポーター株および遺伝子破壊株を作製し、無菌土耕栽培したイネに接種することで、植物共生における高親和性水素酸化の生態学的意義を明らかとすることを目的とした。
発現レポーター株の接種結果より、植物表面および植物体内に局在する胞子でのみGFP蛍光が観察され、菌糸体では蛍光検出されなかった。微生物が共生した植物では水素酸化活性が確認された一方、無菌植物では水素の減少が全く見られないことから、植物に共生するStreptomyces属放線菌の胞子によって大気水素が酸化されると考えられた。
野生株はイネの生育を増大させる特性を持つが、水素を酸化する機能を欠失した遺伝子破壊株では、この生育促進効果の低減が確認された。植物の生育促進に関連する生理学的特性を野生株と破壊株で比較したところ、顕著な違いは見られず、別の要因が考えられた。そこで、植物に定着する細胞数の違いに着目したところ、接種10日後の時点で遺伝子破壊株は細胞数が顕著に少なく、接種4週間後に植物体内から完全に消失した。これより、高親和性水素酸化細菌の植物への初期定着や共生関係の維持に大気水素の取り込みが寄与すると考えられた。また、人工培地において、遺伝子破壊株の生存率の経時的な減少が観察された。これは、栄養制限下や胞子の状態で長期生存するためのエネルギーが大気水素の酸化によって獲得されるとの近年の報告を支持する結果である。
本研究は、大気水素が関与する植物と微生物の共生関係の可能性を初めて示した。微生物が主な住処とする植物表面や導管や細胞間隙は、植物根圏に比べて有機物が常に安定的に得られるとは考えにくく、従属栄養と大気水素酸化の異なる代謝様式を併せ持つことは、そのような環境での生存に有利に働くと考えられる。
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