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概日時計機構を有するウキクサ根圏微生物の探索
【背景と目的】概日時計は地球上における24時間周期の環境変動に適応するための体内リズムであり、生物の様々な生理機能を調節することに関わっている。概日時計は動植物だけでなく昆虫やカビに至るまで、すべての真核生物に存在すると考えられている。一方、原核生物で概日時計の存在が実証されているのはシアノバクテリアなどの光合成微生物だけである。しかし光が直接当たらない環境にも24時間周期の環境変動は存在する。例えば植物の根圏環境では、昼間は植物の根から光合成由来の有機物や酸素が供給されるが、夜間にはその供給が停止する。概日時計機構を有することは、このような日周変動環境に生きる微生物に競争的なメリットを与えるものと予想される。そこで本研究では、概日時計機構を有する微生物を同定・取得することを最終的な目的とし、異なる光照射サイクル下で培養したウキクサの根圏微生物の群集構造を比較することで、日周変動環境で優位に生育可能な微生物の特定を試みた。【方法と結果】北海道大学ポプラ並木横にある池からコウキクサ(Lemna minor)を採取し、滅菌水で軽く洗浄後、三角フラスコ中の無機培地に接種した。コウキクサの培養は4つの異なる光照射条件(7,12,17時間ごとの明暗サイクルと恒常光条件)で各4本ずつ行い、2週間の培養後に継代し、計2回の継代培養を行った。集積培養後、コウキクサ全体からDNAを抽出し、16S rRNA遺伝子をPCR増幅し、次世代シークエンス解析による菌叢解析を行った。4つの条件すべてにおいて優占化した微生物(Rhizobium属、Sphingomonas属に近縁)がいる反面、各条件でのみ優占化する微生物も検出された。Acidovorax属やSphingopyxis属に近縁の微生物は恒常条件以外の3つの変動する環境で優占的に検出されたため、変動する環境に適応する能力が高いものだと予測される。一方恒常条件下でのみ優占化した微生物(Roseomonas属に近縁)も存在し、これらは変動する環境に適応する能力が低い微生物だと考えられる。12時間の明暗サイクルでのみ優占的に生育する微生物として、Roseococcus属、Rhodococcus属、Roseomonas属、Sphingopyxis属、Microbacterium属に近縁な5種が検出された。これらは概日時計機構を有し、日周変動環境で優先して生育することのできる微生物であると予想される。現在、それぞれの光サイクル条件で培養したウキクサ根圏からの微生物の単離・同定を試みている。