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演題詳細

P-243:
genomic-OTUを用いたメタゲノム解析による海洋ウイルスの季節変動
○綿井 博康1, 西村 陽介1, 山本 圭吾3, 五斗 進2, 緒方 博之2, 左子 芳彦1, 吉田 天士1 1京都大・院農, 2京都大・化研, 3大阪環農水研 hrhsys@gmail.com
【目的】多様な海洋微生物は、個々が生態系で異なる役割を担う。海洋微生物の大多数は未分離であるが、16 rRNAに基づく分子系統解析によりその多様性や動態に関する知見は集積されつつある。微生物ウイルスは、微生物を数で遥かに凌駕するが、ウイルスは共通遺伝子 (e.g. 16 rRNA) を欠くことから、その生態的な理解は進んでいない。近年の研究から我々は、海洋ウイルスメタゲノム (ビローム) から多数の完全長ゲノムを構築した。これらをゲノム類似度に基づくgenomic-OTU (gOTU, 属相当) と呼ぶ系統群に分類し、ウイルスの推定属数を既知の2倍以上に拡充した。本研究はgOTUを用いて季節的なビロームの動態解析を行い、ウイルス系統の生態的知見を得ることを目的とした。
【方法】大阪湾と紀伊水道の海水試料を0.2 μmで分画後、鉄共沈法と密度勾配遠心法でウイルスを精製し、MiSeqを用いて8つのビローム (2014年8月~2016年3月) 配列を得た。配列のアセンブリで得た10 Kbp以上のコンティグ (ゲノム断片) を、我々がこれまでに明らかにした1087 gOTUに分類した。ビローム配列のマッピングからウイルス頻度 (FPKM) を算出し、gOTUごとの定量的な動態解析を行った。
【結果と考察】8つのビローム配列から得た3509コンティグの80%がgOTU (計480) に分類された。このことはrRNAの代替としてゲノム単位で海洋ウイルス群集の特徴付けが可能であることを示す。一方で、残りの20%のコンティグは、既存のgOTUに分類されない新規なウイルス系統であった。また夏季に採取した5つのビロームの群集組成は、他の季節の群集組成に比べ互いに類似していることから、その季節的変動が示唆された。次にgOTUごとの出現パターンを調べたところ、57 gOTUはそれぞれ特定の1つのビロームで高頻度 (≧10 FPKM) であった。一方、10 gOTUは季節の異なる6つ以上のビロームで高頻度に出現した。ウイルスが宿主特異的 (時として株レベル) に代謝系を利用して増殖することを考慮すると、こうしたgOTUの長期的な出現パターンの相違は、宿主の個体群レベルでの消長や代謝の差異に起因すると推察される。今後、本手法を用いた動態解析により、各季節の微生物にウイルスが及ぼす影響を把握することは、微生物が支える海洋生態系が温暖化に伴う水温上昇で、どう変遷するかの予測をもたらすため、非常に重要だと考えている。本研究はキャノン財団「理想の追求」の助成を受けた。
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